人手不足が深刻になる中、育成就労制度を活用した外国人材の受入れを検討する企業が増えていくと考えられます。
一方、企業の担当者からは、次のような質問を受けることがあります。
日本人職員を雇い止めにして、その代わりに育成就労外国人を採用することはできますか?
結論からお伝えすると、育成就労制度は、現在働いている職員を会社都合で退職させ、より低い人件費の外国人へ置き換えるための制度ではありません。
育成就労計画の認定に当たっては、受入企業における「非自発的離職者」の発生状況が確認されます。
そのため、人件費の削減などを目的として既存の職員を解雇・雇い止めにし、その代わりに育成就労外国人を受け入れようとする場合、育成就労計画の認定基準に適合しない可能性があります。
育成就労制度は、外国人を単なる安価な労働力として受け入れる制度ではなく、日本国内の人手不足分野において、人材を適正に雇用し、就労を通じて技能を育成するための制度です。制度は2027年4月1日の施行が予定されています。
「非自発的離職者」とは?
非自発的離職者とは、簡単にいえば、労働者本人の意思ではなく、企業側の事情などによって離職した人です。
代表的な例として、次のようなケースが考えられます。
- 会社都合による解雇
- 経営上の理由による人員整理
- 退職勧奨に応じて退職した場合
- 更新を希望していた有期契約労働者に対する雇い止め
- 事業縮小や人件費削減を理由とした契約終了
形式上は「自己都合退職」とされていても、実際には会社から強く退職を求められていた場合などは、非自発的離職と判断される可能性があります。
そのため、離職票に記載された離職理由だけでなく、退職に至った経緯や会社と本人とのやり取りも重要になります。
退職者が1人でもいれば、育成就労外国人を採用できない?
ここは誤解しやすいところです。
単に過去に退職者がいたというだけで、直ちに育成就労外国人を受け入れられなくなるわけではありません。
例えば、次のような離職は、通常、会社が労働者を非自発的に離職させたものとは区別して考えられます。
- 本人の転職希望による退職
- 家庭の事情による退職
- 定年退職
- 本人の重大な責任による解雇
- 更新を希望せず、有期労働契約の期間満了で退職した場合
重要なのは、会社が外国人を採用するために、同じ仕事をしている既存職員を辞めさせたのかという点です。
例えば、介護施設が育成就労外国人を介護職員として受け入れるために、現在の介護職員を人件費削減の目的で解雇した場合は、制度の趣旨に反する可能性が高くなります。
一方、事務職員が本人の希望で退職し、その後に介護職として育成就労外国人を採用する場合は、業務の種類や離職の理由が異なるため、同じようには扱われません。
問題になりやすいケース
1.日本人職員を解雇して外国人に入れ替える
例えば、介護施設で働く日本人介護職員を、
育成就労外国人の方が人件費を抑えられるから
という理由で解雇し、その後に育成就労外国人を採用するケースです。
育成就労外国人には、日本人と同等以上の報酬を支払う必要があります。そのため、外国人を安価な労働力として置き換えること自体が、制度の基本的な考え方と合いません。
また、既存職員の解雇理由と外国人の採用時期が近ければ、審査において両者の関係を確認される可能性があります。
2.有期雇用職員を雇い止めにして外国人を採用する
有期雇用だからといって、契約期間満了による退職がすべて自発的離職になるわけではありません。
例えば、1年契約の職員が契約更新を希望していたにもかかわらず、
今後は育成就労外国人を採用するため、今回は更新しません
として雇い止めを行った場合、非自発的離職として扱われる可能性があります。
特に、過去に契約更新を繰り返していた場合や、会社から更新を期待させる説明があった場合は、労働法上の雇い止めの適法性についても問題になることがあります。
3.退職届を書かせて「自己都合退職」にする
会社が退職を強く迫り、本人に退職届を書かせたとしても、実態が会社都合による退職であれば、単純な自己都合退職として整理できるとは限りません。
例えば、
- 退職しなければ不利益を与えると告げた
- 何度も退職を迫った
- 本人に退職の意思がないのに退職届を書かせた
- 外国人採用後はあなたの仕事がなくなると説明した
といった事情があれば、退職勧奨または事実上の解雇と判断される可能性があります。
書類上の退職理由だけを整えても、面談記録、メール、録音、本人の申告などから実態が確認されることがあります。
能力が低い職員を雇い止めにした場合は?
職員の能力不足や勤務態度を理由として雇い止めや解雇を行った場合、直ちに外国人を受け入れられなくなるとは限りません。
ただし、
能力が低かったから辞めてもらった
という会社側の説明だけでは、十分とはいえません。
次のような記録を残しておくことが重要です。
- 本人に求めていた能力や業務水準
- 具体的に不足していた点
- 指導や研修を実施した記録
- 改善のために与えた期間
- 面談記録や注意書
- 雇い止め・解雇を判断した経緯
- 育成就労外国人の採用とは無関係であること
外国人採用の直前に既存職員を能力不足として雇い止めにした場合、採用との関連を疑われる可能性があります。
そのため、企業には、客観的な資料によって離職理由を説明できる状態が求められます。
会社の経営が厳しい場合はどうなる?
経営不振を理由として職員を解雇した後、すぐに育成就労外国人を採用することは、説明が難しくなる可能性があります。
例えば、
人件費を払えないので日本人職員を解雇したが、人手が足りないので外国人を採用したい
という状況では、
- なぜ既存職員の雇用を維持できなかったのか
- なぜ新たな外国人の賃金や受入費用は負担できるのか
- 単なる人件費削減を目的とした入替えではないか
- 3年間、安定的に育成就労を実施できるのか
といった点が問題になります。
育成就労では、外国人を採用できるかだけでなく、受入企業が継続的かつ安定的に雇用し、計画に沿った育成を実施できるかも重要です。
「日本人を優先して採用しなければならない」という意味ではない
このルールは、
外国人を採用する前に、必ず日本人を募集しなければならない
という意味ではありません。
また、日本人の応募がある限り外国人を採用してはいけない、という制度でもありません。
企業は、必要な人材として育成就労外国人を新たに採用することができます。
問題になるのは、外国人を受け入れるために、現在働いている同種業務の職員を会社都合で辞めさせることです。
したがって、次のような採用まで禁止されるわけではありません。
- 欠員を補充するための採用
- 事業拡大に伴う増員
- 自己都合退職者の補充
- 新しい事業所の開設に伴う採用
- 将来の人員不足を見越した計画的な採用
ただし、育成就労制度には受入人数枠があり、企業が希望する人数を無制限に受け入れられるわけではありません。
採用前に確認しておきたい5つのポイント
育成就労外国人の受入れを検討する企業は、申請準備に入る前に、少なくとも次の事項を確認しておく必要があります。
1.直近の退職者と退職理由
外国人を配置する事業所で、最近、解雇、雇い止め、退職勧奨などがなかったかを確認します。
単に「退職者なし」とするのではなく、退職者ごとに、
- 離職日
- 雇用形態
- 担当業務
- 離職理由
- 契約更新の希望の有無
を整理しておくと安心です。
2.外国人が担当する業務との関係
退職した職員と育成就労外国人が、同種の業務に従事するかを確認します。
肩書きだけでなく、実際の業務内容で判断することが重要です。
例えば、「介護助手」と「介護職員」という異なる名称であっても、実態として同じ介護業務を行っていれば、同種業務と判断される可能性があります。
3.解雇・雇い止めの客観的な根拠
能力不足、勤務態度、事業縮小などを理由とする場合は、会社側の一方的な説明だけでなく、客観的な記録を残しておく必要があります。
4.賃金の比較
育成就労外国人の報酬は、同程度の技能や経験を有する日本人労働者と比較して、同等以上でなければなりません。
「外国人だから安く採用できる」という前提で採用計画を立てることはできません。
5.継続して雇用できる経営体制
育成就労は、原則として3年間の就労を通じて人材を育成する制度です。
採用時だけでなく、
- 3年間の人件費
- 社会保険料
- 住居関係費
- 講習・教育費
- 監理支援費用
- 試験費用
- 転籍に関する費用負担
なども見込んで、継続的に受け入れられるかを確認する必要があります。
すでに非自発的離職者がいる場合はどうすればよい?
非自発的離職者がいる可能性がある場合、事実を隠して申請することは避けなければなりません。
まず、次の事項を整理します。
- 誰が離職したのか
- どのような業務に従事していたのか
- 離職日はいつか
- 本人は退職や契約終了を希望していたのか
- 解雇・雇い止めに至った理由は何か
- 育成就労外国人の採用計画との関連はあるか
- 例外や正当な理由として説明できる事情があるか
そのうえで、育成就労計画の認定申請が可能か、申請時期を調整すべきか、関係機関への事前確認が必要かを検討します。
「退職届があるから問題ない」「有期雇用だから問題ない」と自己判断するのは危険です。
特定技能でも同じようなルールがある
既存の特定技能制度でも、特定技能外国人が従事する業務と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないことが、受入機関の基準として設けられています。
特定技能の運用要領では、非自発的離職者を1人でも発生させている場合、原則として基準に適合しないことや、解雇、退職勧奨、一定の雇い止めなどが対象となり得ることが示されています。
育成就労制度においても、外国人の受入れによって国内の労働者の雇用が不当に奪われることを防ぐという基本的な考え方が引き継がれています。
まとめ
育成就労制度は、人手不足に対応するための制度ですが、現在の職員を辞めさせて外国人に置き換えるための制度ではありません。
特に注意が必要なのは、育成就労外国人が担当する予定の業務と同種の業務に従事する職員について、
- 解雇した
- 退職勧奨を行った
- 更新を希望していたのに雇い止めにした
- 外国人採用を理由として退職させた
といったケースです。
このような非自発的離職がある場合、育成就労計画の認定に影響する可能性があります。
一方で、自己都合退職者の補充や、事業拡大に伴う増員まで禁止されるものではありません。
重要なのは、外国人の採用を決めてから形式だけを整えるのではなく、既存職員の離職状況、採用理由、業務内容、賃金、経営体制を事前に確認し、制度の趣旨に沿った採用計画を作ることです。
伊達行政書士事務所のサポート
伊達行政書士事務所では、介護現場での実務経験と福祉分野の専門知識を生かし、育成就労・特定技能外国人の受入れを検討する企業をサポートしています。
- 育成就労外国人の受入要件の確認
- 既存職員の離職状況に関する事前整理
- 育成就労計画の作成・認定申請
- 雇用条件や受入体制の確認
- 監理支援機関との連携
- 制度開始に向けた企業向け相談
「最近、雇い止めをしたが受入れできるのか」「退職者がいる場合、申請に影響するのか」など、企業ごとの状況に応じて整理いたします。
育成就労外国人の受入れを検討されている岡山県内の企業様は、お気軽にご相談ください。

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