成年後見制度には、現在、補助・保佐・後見という3つの類型があります。
これは、本人の判断能力の程度に応じて、必要な支援の範囲や、補助人・保佐人・成年後見人に与えられる権限を変える仕組みです。裁判所も現在、補助は「判断能力が不十分な方」、保佐は「判断能力が著しく不十分な方」、後見は「判断能力が欠けているのが通常の状態の方」を対象とする制度として案内しています。
一方、2026年6月に成立した民法等の改正により、この仕組みは今後大きく変わります。
改正後は、後見・保佐を廃止し、補助の制度に一元化したうえで、本人に必要な範囲で代理権や取消権を付与する仕組みになります。
この記事では、まず現在の「補助・保佐・後見」の違いを整理したうえで、今後の制度改正によって何が変わるのかを分かりやすく解説します。
成年後見制度とは
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方を、法律面から支援する制度です。
たとえば、
・預貯金の管理が難しくなった
・施設入所や介護サービスの契約ができない
・不動産など重要な財産を適切に管理することが難しい
・不利益な契約をしてしまうおそれがある
といった場面で、本人の生活や財産を守る役割を果たします。
現在の法定後見制度では、本人の判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つに分かれています。
補助とは?
補助は、3つの中では比較的本人の判断能力が残っている方を対象とする制度です。
裁判所では、対象となる方を**「判断能力が不十分な方」**としています。
たとえば、
「普段の生活や買い物は自分でできる」
一方で、
「不動産の売却や大きな契約については、一人で判断するのが少し不安」
といった状態がイメージしやすいでしょう。
補助人には、最初から広い権限が与えられるわけではありません。
家庭裁判所が必要と認めた特定の法律行為について、同意権・取消権や代理権を個別に付与する仕組みです。
つまり補助は、
本人ができることは本人に任せ、難しい部分だけ支援する
という考え方に近い制度です。
保佐とは?
保佐は、補助よりも判断能力が低下している方を対象とする制度です。
裁判所では、対象となる方を**「判断能力が著しく不十分な方」**としています。
たとえば、
「日常的な買い物などはできる」
一方で、
「借金、不動産売買、保証などの重要な契約について一人で適切に判断することが難しい」
といった場合です。
保佐人には、民法上の一定の重要な法律行為について、同意権・取消権があります。
また、施設入所契約や特定の財産管理などを本人に代わって行う必要がある場合には、家庭裁判所から個別に代理権を付与してもらうこともできます。
つまり保佐では、
重要な契約について本人を守る仕組みがあらかじめ用意され、必要に応じて代理権を追加する
という形になります。
後見とは?
後見は、現在の3類型の中で最も支援の範囲が広い制度です。
対象となるのは、裁判所の表現では**「判断能力が欠けているのが通常の状態の方」**です。
成年後見人には、本人の財産に関する法律行為について広い代理権があります。
たとえば、
・預貯金の管理
・各種支払い
・施設入所契約
・介護・福祉サービスの契約
・不動産の管理
・その他の財産管理に必要な手続き
などを本人に代わって行うことができます。
また、本人が自ら行った法律行為についても、日常生活に関する行為を除き、本人または成年後見人が取り消すことができます。
そのため、判断能力が大きく低下した本人を財産上の不利益から守るための強い権限が認められています。
補助・保佐・後見の違いを整理すると
現在の制度を大まかに整理すると、次のようになります。
| 項目 | 補助 | 保佐 | 後見 |
|---|---|---|---|
| 判断能力 | 不十分 | 著しく不十分 | 欠けているのが通常 |
| 代理権 | 必要な行為について個別に付与 | 必要な行為について個別に付与 | 広い代理権あり |
| 同意権 | 必要な行為について個別に付与 | 一定の重要な法律行為についてあり | 原則として「同意権」で支える制度ではない |
| 取消権 | 同意権を付与した範囲 | 一定の重要な法律行為についてあり | 日常生活行為を除き広く認められる |
現在の制度は、本人の判断能力が低下するほど、支援する側の権限も広くなる仕組みになっています。
なぜ成年後見制度を見直すことになったのか
これまでの制度には、本人を守るという大切な役割がある一方で、
本人に必要な支援の範囲よりも広い権限制限になる場合がある
という課題もありました。
特に後見では、成年後見人に広い代理権・取消権が与えられます。
本人に判断が難しい部分があるとしても、すべてのことについて判断できないとは限りません。
たとえば、
「銀行の手続きは難しい」
けれど、
「普段の生活やお金の使い方については自分で判断できる」
という方もいます。
こうした場合にも、本人の状態を「後見」「保佐」「補助」という類型に当てはめる現在の制度では、支援する権限と本人に必要な支援との間にズレが生じることがあります。
そこで今回の改正では、
本人ができることは本人自身で行い、必要な部分だけ支援する
という考え方を、より強く制度へ反映することになりました。
2026年6月、成年後見制度の改正法が成立
2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同年6月24日に公布されました。
今回の改正では、法定後見制度について、
後見及び保佐の制度を廃止し、補助の制度へ一元化することが決まりました。
これは単に「後見」「保佐」という名称がなくなるだけではありません。
制度の考え方そのものが大きく変わります。
改正後は「必要な権限だけを付ける」仕組みへ
法務省は、改正後の制度について、本人に必要な事項について代理権・取消権を付与する補助制度に一元化すると説明しています。
イメージすると、
現在
本人の判断能力をみて、補助・保佐・後見のどれに該当するかを判断する。
↓
その類型に応じた権限が与えられる。
改正後
まず、本人は何について支援が必要なのかを考える。
↓
必要な事項について、代理権・取消権などを個別に設定する。
という方向へ変わります。
「必要なサービスを選ぶ」制度になる?
一般の方に説明する場合、
「その人に必要な支援を選ぶ仕組みになる」
という説明は分かりやすいと思います。
ただし、法律上は「サービスを選ぶ」というより、
本人に必要な「権限・支援の範囲」を個別に設定する
と表現した方が正確です。
たとえば、
Aさん
・預貯金管理について代理権が必要
・施設入所契約について代理権が必要
・特定の契約について取消権が必要
Bさん
・不動産管理についてだけ支援が必要
・日常のお金の管理は本人自身でできる
というように、同じ補助制度を利用していても、本人ごとに補助人へ与えられる権限が異なる仕組みになります。
「3つの類型」から「本人に必要な支援」へ
今回の改正を一言で表すなら、
「人を3つの類型に分ける制度」から、「本人に必要な支援を個別に設定する制度」へ
変わるということです。
成年後見制度は、本人の代わりに何でも決めるための制度ではありません。
本人が自分で判断できることについては、その意思をできるだけ尊重し、
本人だけでは難しい部分を支える
という方向へ、制度そのものが変わろうとしています。
新しい制度はいつから始まる?
ここは非常に重要です。
2026年8月現在、新しい制度はまだ施行されていません。
成年後見制度の見直しに関する改正は、
2026年6月24日の公布の日から2年6か月を超えない範囲で、政令で定める日
に施行されます。
したがって、現在成年後見制度を利用する場合には、これまでどおり、
補助・保佐・後見
の3類型で手続きを行います。
実際に裁判所も、現在は「後見・保佐・補助」の3類型として成年後見制度を案内しています。
一方、厚生労働省では、すでに改正後の補助制度を適切に利用するための運用について検討が進められています。
制度が変わるまで成年後見の利用を待った方がいい?
「制度が変わるなら、新制度になるまで待った方がいいのでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、すでに、
・銀行手続きができない
・施設入所契約が進められない
・本人が不要な高額契約を繰り返している
・財産を適切に管理する人がいない
といった問題が生じている場合には、新制度の施行を待つことが本人にとって適切とは限りません。
現在必要な支援については、現在の制度の中で検討することが基本です。
一方で、まだ本人に十分な判断能力があり、将来への備えを考えているのであれば、
任意後見契約
見守り契約
財産管理等委任契約
なども含めて検討することができます。
任意後見制度はどうなる?
今回の「補助への一元化」は、主として法定後見制度の見直しです。
任意後見は、本人に判断能力があるうちに、自分で信頼できる人を選び、将来お願いする内容を契約しておく制度
です。そのため、
法定後見
→ 判断能力が低下してから、家庭裁判所の手続を通じて利用する
任意後見
→ 判断能力があるうちに、将来へ備えて契約しておく
という基本的な違いは引き続き重要になります。裁判所も現在、任意後見を、本人があらかじめ締結した契約に基づき、任意後見監督人が選任されたときから効力が生じる制度として案内しています。
今後は「本人の意思」がさらに重要になる
今回の改正を理解するうえで重要なのは、単に制度の名前が変わることではありません。
中心にあるのは、
本人の自己決定をできるだけ尊重する
という考え方です。
認知症や障がいがあるからといって、本人が何も判断できなくなるわけではありません。
本人が、
「どこで暮らしたいのか」
「何にお金を使いたいのか」
「どんなサービスを利用したいのか」
「誰に支援してもらいたいのか」
といった希望をできるだけ尊重しながら、難しい部分だけ法律面から支えることが重要になります。
今回の改正は、こうした考え方をより制度に反映したものといえます。
まとめ|成年後見制度は「必要な部分だけ支える制度」へ
現在の成年後見制度では、
補助
→ 判断能力が不十分
保佐
→ 判断能力が著しく不十分
後見
→ 判断能力が欠けているのが通常
という3類型があります。
そして、支援する側の権限についても、
補助
→ 必要な範囲で同意権・取消権・代理権を設定
保佐
→ 一定の重要な法律行為について同意権・取消権があり、必要に応じて代理権を設定
後見
→ 広い代理権と取消権
という違いがあります。
これが2026年の法改正によって、後見・保佐を廃止し、補助へ一元化されることになりました。
改正後は、「本人をどの類型に当てはめるか」ではなく、「本人にはどのような支援・権限が必要なのか」
を中心に考える仕組みへ変わります。
ご本人が今、何に困っているのか
どこまで自分で判断できるのか
どの部分に支援があれば、その人らしい生活を続けられるのか
を整理することが大切です。
伊達行政書士事務所では、成年後見・任意後見だけでなく、見守り契約や財産管理等委任契約なども含め、ご本人・ご家族の状況に応じた支援の形を一緒に整理します。

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