高齢者の単身世帯が増える中、介護や医療の現場では、「家族がいれば家族が担っていたはずの支援」を誰が行うのかという問題が顕在化しています。
特に居宅介護支援の現場では、利用者に頼れる家族や親族がいないため、
・入退院に関する対応
・各種手続きの支援
・日常生活上の細かな支援
・金銭や支払いに関する対応
・死後の対応に関する調整
などを、ケアマネジャーが本来の業務範囲を超えて対応せざるを得ないケースがあります。
こうした業務は、いわゆる**「シャドーワーク」**として、国の検討会でも課題として取り上げられてきました。
そして2026年、こうした問題への対応にもつながる大きな制度改正が行われました。
ケアマネジャーが抱える「シャドーワーク」とは
ケアマネジャーの本来の役割は、利用者の心身の状況や生活環境を把握し、必要な介護サービス等を組み合わせてケアプランを作成するとともに、関係機関との連絡・調整を行うことです。
しかし実際の現場では、特に身寄りのない高齢者の場合、「他に対応する人がいない」という理由から、制度上の業務とは別の支援までケアマネジャーが引き受けているケースがあります。
厚生労働省も、身寄りのない高齢者等への生活課題への対応として、ケアマネジャーが法定外業務、いわゆるシャドーワークを担うことが多いと整理しています。
そして、こうした課題については、ケアマネジャー個人が抱え込むのではなく、地域ケア会議等も活用しながら地域全体の課題として対応していく必要があるとの方向性が示されています。
新たな「第二種社会福祉事業」が創設される
このような状況を背景として、2026年6月25日に公布された「社会福祉法等の一部を改正する法律」では、頼れる身寄りがいない高齢者等への支援を行う新たな事業を第二種社会福祉事業として位置付けることとされました。
新たな事業では、大きく次のような支援が想定されています。
1.日常生活の支援
日常的な金銭管理をはじめ、これまで家族や親族が担ってきた生活上の支援を行います。
本人が地域で生活を続けるために必要となる、日常的・継続的な支援を担うことが想定されています。
2.入院・入所等の手続支援
病院への入院や施設への入所に際して必要となる手続きなどを支援します。
特に、頼れる家族がいない場合には、入院・入所時の手続きを誰が支えるのかが大きな問題となっていました。
今回の制度では、こうした支援を社会福祉事業として位置付けることで、家族や一部の支援者だけに負担を集中させない仕組みを整備していくことになります。
3.死後事務の支援
本人が亡くなった後に必要となる各種手続きなどについても、新たな事業の対象として位置付けられます。
これまで、身寄りのない高齢者が亡くなった場合、医療機関、介護施設、ケアマネジャー、行政、社会福祉協議会などの関係者が、誰がどこまで対応するのか判断に苦慮するケースもありました。
今回の制度改正では、死後事務についても支援の仕組みを整えることとされています。
「ケアマネの仕事を第二種社会福祉事業へ移す」ということではない
ここは誤解しやすいところです。
今回の制度改正は、
「これまでケアマネジャーが行ってきた業務を、すべて第二種社会福祉事業者が代わりに行う」
というものではありません。
むしろ重要なのは、ケアマネジャーが一人で抱えていた生活上の課題について、地域の社会資源を整理し、必要な支援につなげられる体制を作っていくことです。
厚生労働省の介護保険部会でも、ケアマネジャーのシャドーワークとの関係について、身寄りのない高齢者等への支援を地域全体で整理し、新たな第二種社会福祉事業や成年後見制度など、必要な関係者・関連事業につなげていく考え方が示されています。
つまり今後は、
「ケアマネジャーが必要性に気付き、そのまま自分で対応する」
のではなく、
「ケアマネジャーが課題を把握し、地域包括支援センターや関係機関と連携し、適切な支援につなぐ」
という役割分担がより重要になると考えられます。
成年後見制度とは役割が異なる
身寄りのない高齢者への支援というと、成年後見制度を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、新たな第二種社会福祉事業と成年後見制度は、必ずしも同じ役割を担うものではありません。
成年後見制度は、認知症などにより判断能力が不十分な方について、成年後見人等が財産管理や身上保護に関する法律行為を支援する制度です。
一方で、
「判断能力は十分にあるが、頼れる家族がいない」
という高齢者も少なくありません。
例えば、
・自分で契約内容は理解できる
・預貯金も基本的には自分で管理できる
・しかし入院時に頼れる人がいない
・日常生活のちょっとした支援を頼める家族がいない
・亡くなった後の手続きを任せる人がいない
といったケースです。
このような場合、必ずしも成年後見制度を利用する必要があるとは限りません。
今回の制度改正では、成年後見制度とは別に、日常生活支援や入院等の手続支援、死後事務支援を行う社会福祉事業を整備することで、こうした「制度の狭間」にあるニーズにも対応していくことが期待されています。
また、判断能力が低下して成年後見制度を利用している場合であっても、後見人自身が日常的な付き添いや生活上の実働支援をすべて行うわけではありません。
そのため、成年後見制度と新たな第二種社会福祉事業が連携して本人を支えるケースも考えられます。
市町村や地域包括支援センターの役割も重要に
今回の制度改正は、新しい事業者を作るだけのものではありません。
頼れる身寄りがいない高齢者等への支援について、市町村の包括的な支援体制の中で対応していくことも重要な柱となっています。
厚生労働省は、地域包括支援センターなどの相談支援機関がこうした課題を把握し、地域の支援機関や新たな第二種社会福祉事業等につなげていく仕組みを示しています。
したがって今後は、
本人・家族
↓
ケアマネジャー・医療機関・地域包括支援センター等が課題を把握
↓
市町村や地域の関係機関で支援を調整
↓
第二種社会福祉事業、成年後見制度、その他の社会資源へつなぐ
という地域連携が、より重要になってくると考えられます。
第二種社会福祉事業になったことの意味
これまでにも、民間事業者による「高齢者等終身サポート事業」など、身元保証、日常生活支援、死後事務等を提供するサービスは存在していました。
一方で、一定の費用が必要となるため、経済的に余裕のない高齢者には利用しにくいという問題も指摘されています。
今回の改正では、日常生活支援、入院・入所手続支援、死後事務支援等について、利用者のうち一定割合以上に無料または低額で提供する事業を第二種社会福祉事業として位置付け、多様な主体が支援を担える仕組みとされています。
単なる民間の「家族代行サービス」ではなく、社会福祉法上の社会福祉事業として位置付けられる点は、大きな制度変更といえるでしょう。
今後、ケアマネジャーの役割はどう変わるのか
今回の制度改正によって、直ちにケアマネジャーのシャドーワークがなくなるわけではありません。
地域によって社会資源の整備状況は異なりますし、新しい第二種社会福祉事業についても、今後具体的な運用方法や地域での体制整備が進められていくことになります。
しかし、国の方向性としては明確です。
これまで、
「身寄りがいないから、ケアマネジャーが対応する」
となっていた課題について、
「誰が担うべき支援なのかを整理し、地域全体で適切な支援先につなぐ」
方向へ転換しようとしています。
ケアマネジャーにとっても、利用者の生活を支えるために何でも自ら対応するのではなく、
必要な支援を見極め、適切な社会資源につなぐという、本来のケアマネジメント機能を発揮できる環境を整えること
が、今後ますます重要になるのではないでしょうか。
まとめ
身寄りのない高齢者の増加に伴い、これまで家族が担ってきた役割を誰が担うのかという問題は、介護・医療・福祉の現場における大きな課題となっています。
そのしわ寄せを受ける形で、ケアマネジャーが本来の業務を超えた「シャドーワーク」を担っているケースも少なくありません。
2026年6月に公布された社会福祉法等の改正では、こうした課題への対応として、頼れる身寄りがいない高齢者等への
「日常生活支援」
「入院等の手続支援」
「死後事務支援」
を行う事業が、新たに第二種社会福祉事業として位置付けられました。
今後は、ケアマネジャー、地域包括支援センター、市町村、社会福祉協議会、成年後見人、新たな第二種社会福祉事業者などがそれぞれの役割を整理し、地域全体で支える仕組みを構築していくことが求められます。
「誰もやる人がいないから、ケアマネジャーがやる。」
そのような支援のあり方から、
「必要な支援を地域の適切な担い手につなぐ」
仕組みへの転換が、いよいよ具体的に始まろうとしています。
※本記事は2026年8月時点の法令・厚生労働省資料等をもとに作成しています。今後、政省令や通知等により具体的な運用が示される可能性があります。

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