育成就労制度では、一定の条件を満たした外国人について、本人の希望による「転籍」が認められます。
一方、受入企業からすれば、外国人を受け入れるまでに、
- 人材の募集・選考
- 海外の送出機関との調整
- 来日に向けた各種手続
- 日本語教育や入国後講習
- 住居や生活環境の準備
など、さまざまな費用と時間をかけることになります。
そのため、企業からは次のような疑問が出てきます。
費用をかけて受け入れた外国人が、途中で別の会社へ転籍した場合、最初にかかった費用はすべて会社の負担になるのでしょうか?
結論として、育成就労制度には、本人の意向によって転籍する場合に、転籍先企業から転籍元企業へ初期費用の一部を補填する仕組みが設けられています。
ただし、実際に支払った費用が、そのまま全額返ってくる制度ではありません。
補填額は、主務大臣が告示で定める額を基礎として、転籍元企業で働いた期間に応じた割合を掛けて算定されます。
まず押さえたい結論
この制度のポイントは、次のとおりです。
- 補填が問題になるのは、原則として本人意向による転籍
- 支払うのは転籍先の受入企業
- 受け取るのは転籍元の受入企業
- 外国人本人に返してもらう制度ではない
- 実際に支出した費用が全額返るわけではない
- 転籍元での就労期間が長いほど、補填割合は小さくなる
- 転籍元で初期費用が発生していなければ、補填は不要
- 転籍元企業は、受入れ時の領収書などを保管しておく必要がある
つまり、一般的な「返金」というよりも、
転籍先企業が、転籍元企業の初期投資の一部を引き継ぐための制度
と考えると分かりやすいでしょう。
「転籍」には2つの種類がある
育成就労制度の転籍は、大きく分けて次の2つです。
1.やむを得ない事情による転籍
例えば、
- 会社の倒産や廃業
- 事業縮小による雇用継続の困難
- 賃金の不払い
- 暴行、暴言、ハラスメント
- 雇用契約の重大な違反
- 重大・悪質な法令違反
など、現在の企業で育成就労を続けることが適当でない事情がある場合です。
2.本人の意向による転籍
会社側に重大な問題がなくても、一定の転籍制限期間を経過し、技能や日本語能力などの要件を満たした外国人が、本人の希望で別の受入企業へ移る場合です。
今回説明する初期費用の補填制度は、主にこの本人意向による転籍の際に問題になります。
「育成就労外国人が転籍すれば、どのような場合でも補填される」というわけではありません。
誰が、誰に支払うのか
補填金を支払う関係は、次のとおりです。
転籍先の受入企業
↓
初期費用の一部を補填
↓
転籍元の受入企業
例えば、A社で育成就労を行っていた外国人が、本人の希望によってB社へ転籍する場合、
B社がA社に対して補填金を支払う
という形です。
外国人本人がA社へお金を返すわけではありません。また、監理支援機関が当然に補填する仕組みでもありません。
制度上は、転籍先企業が転籍元企業へ一定額を支払うことが、本人意向による転籍先の認定基準の一つになっています。
実際にかかった初期費用が全額返るわけではない
ここは特に誤解しやすいところです。
補填額は、
実際に支払った費用をすべて合計し、その全額を転籍先へ請求する
という計算ではありません。
規則上は、次の考え方で算定します。
主務大臣が告示で定める額 × 転籍元での就労期間に応じた按分率
さらに、計算した金額に1,000円未満の端数がある場合は切り捨てます。
したがって、転籍元企業が実際に50万円を支出していたからといって、必ず50万円が補填されるわけではありません。
反対に、会社が自由に補填額を決めて転籍先へ請求できるわけでもありません。
1回目の本人意向転籍における補填割合
育成就労外国人にとって初めての本人意向転籍である場合、転籍元企業で育成就労を行った期間に応じて、次の割合を掛けます。
| 転籍元企業での育成就労期間 | 補填の按分率 |
|---|---|
| 1年以上1年6か月未満 | 6分の5 |
| 1年6か月以上2年未満 | 3分の2 |
| 2年以上2年6か月未満 | 2分の1 |
| 2年6か月以上 | 4分の1 |
転籍元企業で働いた期間が短いほど、補填割合は高くなります。
これは、受入れから間もない時期ほど、転籍元企業が受入れ時に負担した費用を十分に回収できていないと考えられるためです。
反対に、長期間働いた後の転籍では、企業も一定期間その人材の労務提供を受けているため、補填割合は小さく設定されています。
具体的な計算例
ここでは、分かりやすくするため、主務大臣が告示で定める基礎額を仮に30万円として計算します。
実際の申請では、その時点で適用される最新の告示額を確認する必要があります。
*2026年7月時点の上記の計算方法までは示されていますが、基準額が具体的に何万円なのかは記載されていません。
なのでここでは仮に30万円としています。
例1:1年3か月で転籍した場合
1年以上1年6か月未満なので、按分率は6分の5です。
30万円 × 6分の5
=25万円
転籍先企業が転籍元企業へ支払う補填額は、25万円となります。
例2:1年8か月で転籍した場合
1年6か月以上2年未満なので、按分率は3分の2です。
30万円 × 3分の2
=20万円
例3:2年3か月で転籍した場合
2年以上2年6か月未満なので、按分率は2分の1です。
30万円 × 2分の1
=15万円
例4:2年8か月で転籍した場合
2年6か月以上なので、按分率は4分の1です。
30万円 × 4分の1
=7万5,000円
このように、転籍時期によって、転籍元企業が受け取れる補填額は大きく変わります。
初期費用がかかっていない場合は補填されない
転籍元企業において、対象となる初期費用が発生していない場合には、補填は必要ありません。
運用要領では、例えば、やむを得ない事情による転籍で現在の転籍元企業へ移っており、その企業が当初の受入れに関する初期費用を負担していない場合などが示されています。
つまり、転籍元企業で働いていたという事実だけで、必ず補填金を請求できるわけではありません。
実際に、対象となる受入れ時の費用を負担していたかどうかが重要になります。
補填金は自動的に支払われるのか
自動的に口座へ振り込まれる仕組みではありません。
本人意向による転籍を受け入れる転籍先企業は、新たな育成就労計画の認定申請において、
転籍元企業へ所定の補填額を支払う
ことを誓約する必要があります。
また、転籍元企業と事前に調整できる場合は、支払額について双方の認識を一致させておくことが望ましいとされています。
いつまでに支払う必要がある?
本人意向による転籍者を受け入れた企業は、新たな育成就労計画の認定後、6か月以内に、補填額を支払ったことを証明する書類を外国人育成就労機構へ提出する必要があります。
支払証明書類としては、実務上、
- 銀行振込の記録
- 領収書
- 支払額と対象者が分かる明細
- 転籍元・転籍先間の確認書
などを整理しておくことが考えられます。
単に口頭で「支払いました」と説明するだけではなく、客観的に支払を確認できる書類を残しておく必要があります。
誓約したのに支払わなかった場合は?
転籍先企業が、認定申請時には補填金を支払うと誓約したにもかかわらず、実際には支払わなかった場合、虚偽の申請を行ったものとして、育成就労計画の認定取消しの対象となる可能性があります。
したがって、転籍先企業は、本人意向による転籍者を受け入れる前に、
- 補填額はいくらになるのか
- 誰に支払うのか
- いつまでに支払うのか
- 支払原資を確保できるか
を確認しなければなりません。
「転籍者なら、海外から新たに採用するより費用が安い」と安易に判断すると、想定外の補填負担が発生する可能性があります。
転籍元企業が保存しておくべき資料
運用要領では、転籍元企業に対し、育成就労外国人を受け入れる際に要した費用の領収書などを保管するよう求めています。
実務上は、外国人ごとに次の資料をまとめておくとよいでしょう。
- 監理支援機関や送出機関からの請求書
- 費用を支払った領収書・振込記録
- 講習や教育に関する請求書
- 渡航・入国準備に関する支払資料
- 住居準備に関する支払資料
- 受入れ時に発生した費用の一覧表
- 費用の負担者が分かる契約書
- 育成就労を開始した日が分かる資料
すべての費用が補填額にそのまま算入されるわけではありませんが、初期費用が実際に発生していたことを説明するため、証拠書類の保存は重要です。
複数人をまとめて採用した場合は、「外国人1人当たりの費用」が分かるように分けて管理しておくと、転籍時の確認がしやすくなります。
企業が勘違いしやすいポイント
「実費を全額請求できる」
できません。
制度上の算定額は、原則として告示額に就労期間に応じた割合を掛けて計算します。
「外国人本人に返してもらえる」
外国人本人に返還させる仕組みではありません。
転籍先企業から転籍元企業への補填です。
「どのような転籍でも補填される」
本人意向による転籍の認定要件として設けられた制度です。やむを得ない事情による転籍など、転籍理由によって取扱いは異なります。
「転籍が決まれば自動的に支払われる」
自動支払ではありません。
転籍先企業による誓約、実際の支払、支払証明書類の提出が必要です。
「初期費用は後で戻るので、領収書は捨ててもよい」
逆です。
補填を受ける可能性があるからこそ、誰の受入れのために、いつ、いくら支払ったのかを証明できる資料を残す必要があります。
企業は初期費用が戻る前提で受け入れてよい?
初期費用の補填制度はありますが、受入費用が必ず全額回収できるわけではありません。
また、外国人が必ず本人意向で転籍するとも限らず、転籍理由や転籍時期、初期費用の有無によっても取扱いが変わります。
そのため、企業の資金計画としては、
転籍時に費用が戻ってくることを前提にせず、補填があれば一部の負担が軽減される
程度に考えておく方が安全です。
受入れ前には、採用時の初期費用だけでなく、
- 毎月の監理支援費
- 日本語教育費
- 試験受験費用
- 社会保険料の事業主負担
- 住居の準備・維持費
- 生活支援に必要な人件費
- 転籍者を受け入れる場合の補填金
まで含めて、3年間の受入コストを見込んでおく必要があります。
まとめ
育成就労制度では、外国人が本人の意向によって転籍する場合、転籍先企業が転籍元企業へ初期費用の一部を補填する仕組みがあります。
ただし、
- 実費の全額が返るわけではない
- 補填額は告示額と就労期間によって算定される
- 転籍元での期間が長いほど補填割合は低くなる
- 転籍元で初期費用が発生していなければ補填は不要
- 転籍先は認定後6か月以内に支払証明を提出する
- 転籍元は受入費用の領収書などを保管する
という点に注意が必要です。
特に大切なのは、
「外国人が転籍すれば初期費用が戻る」のではなく、「本人意向転籍の一定の場合に、制度上算定された一部の金額が転籍先から補填される」
という正確な理解です。
育成就労外国人の受入れを検討する企業は、採用時から外国人ごとの受入費用を整理し、転籍が発生した場合にも説明できる管理体制を整えておくことが重要です。
伊達行政書士事務所のサポート
伊達行政書士事務所では、育成就労・特定技能外国人の受入れを検討する企業様に対し、制度と現場運用の両面からサポートを行っています。
- 育成就労外国人の受入要件の確認
- 育成就労計画の作成・認定申請
- 本人意向による転籍要件の確認
- 転籍時の初期費用補填に関する整理
- 雇用条件・住居費・外国人負担費用の確認
- 監理支援機関との連携
- 受入れ前の費用・運用体制の確認
「転籍された場合、どこまで費用が補填されるのか」「転籍者を受け入れる際に、どのような費用が必要になるのか」など、企業ごとの状況に応じて整理いたします。
岡山県で育成就労外国人の受入れを検討されている企業様は、お気軽にご相談ください。

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