介護現場では、慢性的な人材不足や職員の負担増加を背景に、介護ソフト、見守り機器、インカムなどのテクノロジー活用がますます重要になっています。
岡山県では、介護事業所における生産性向上や職場環境の改善を支援するため、令和8年度も「岡山県介護テクノロジー定着支援事業」を実施しています。
令和8年度は、補助率が最大4分の5と高く、介護ソフトや見守り機器の導入だけでなく、Wi-Fi環境の整備、タブレット端末、導入前後の支援費用なども、一定の条件を満たせば補助対象となる可能性があります。
また、今年度は1法人から複数事業所の応募が可能となり、昨年度よりも法人全体で活用を検討しやすい制度となっています。
この記事では、令和8年度の制度内容について、対象事業所、補助対象経費、介護ソフトの基準額、複数事業所から応募する場合の考え方、申請時の注意点まで、岡山県の公表資料を基に詳しく解説します。
令和8年度の募集期間
令和8年度の応募期間は、次のとおりです。
令和8年7月8日(水)から8月18日(火)まで
応募に当たっては、研修の受講、岡山県介護生産性向上総合相談センターへの相談、業務改善計画書や事業計画書の作成・提出が案内されています。単に見積書を提出するだけではなく、導入によってどの業務をどのように改善するのかを整理する必要があります。
なお、応募しただけで補助が確定するものではありません。
介護テクノロジー定着支援事業とは
この事業は、介護事業者が介護テクノロジーを導入し、生産性向上や職場環境の改善に取り組む際の費用を補助するものです。
令和8年度は、大きく次の3つの支援が設けられています。
1.介護テクノロジー等の導入支援
介護ロボット、見守り機器、介護記録ソフト、インカムなどの導入を支援するものです。
2.介護テクノロジーのパッケージ型導入支援
介護ソフトなどの「介護業務支援」に該当するテクノロジーと、それに連動することで効果が高まる機器を組み合わせて導入する場合の支援です。
3.テクノロジー導入と専門家による改善支援
介護テクノロジーの導入に加え、専門家による業務分析や業務改善支援を受ける場合の費用を補助するものです。
補助率は最大4分の5
令和8年度の補助率は、対象経費の4分の5以内です。
例えば、補助対象として認められた経費が100万円の場合、補助額の目安は次のとおりです。
100万円 × 4分の5 = 80万円
ただし、機器やソフトごとに基準額が設定されています。
実際の補助額は、原則として、
- 実際の補助対象経費
- 制度上の基準額
を比較し、低い方の金額を基に計算します。
そのため、基準額が250万円であっても、必ず250万円分の経費が認められる、または250万円がそのまま交付されるという意味ではありません。
補助対象となる事業所
対象となるのは、岡山県内で介護サービスを提供する事業所です。
案内資料では、主に次の事業所が対象とされています。
- 介護保険法に基づくサービスを提供する介護事業所
- 養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム
施設系サービスだけでなく、通所系、訪問系、そのほかの介護サービスも対象に含まれます。
ただし、応募時点で介護事業所として指定を受けておらず、事業所番号が付与されていない場合は対象となりません。
令和8年度の大きな変更点
1法人から複数事業所の応募が可能
令和7年度は、原則として1法人1事業所のみの応募でした。
令和8年度は、1法人から複数事業所の応募が可能となっています。
例えば、同一法人内に次の事業所がある場合です。
- 特別養護老人ホーム
- 併設型ショートステイ
- デイサービス
- 訪問介護事業所
- 居宅介護支援事業所
それぞれが独立した介護事業所として整理される場合、複数事業所から応募できる可能性があります。
応募書類は法人本部で取りまとめて一括提出できますが、応募書類や業務改善計画書は事業所単位で作成します。
また、同じ建物内に特別養護老人ホームと併設型短期入所生活介護がある場合でも、サービス種別が異なるため、2事業所として整理して業務改善計画書等を作成することとされています。
見守り機器・介護記録ソフト・インカムを集中的に支援
令和8年度は、特に業務時間削減効果が確認されている次の3つについて、集中的に支援すると明記されています。
- 見守り機器
- 介護記録ソフト
- インカム
県の予算額を超える応募があった場合には、過去の補助実績、導入機器の内容、導入台数の適正性などを踏まえて総合的に審査されます。
審査項目には、見守り機器、介護記録ソフトまたはインカムを含む計画であるかどうかも挙げられています。
ただし、この3つを申請すれば必ず採択されるという意味ではありません。
申請内容によっては、不採択となったり、希望額から減額されたり、計画の変更を求められたりする場合があります。
どのような機器や費用が対象になるのか
見守り機器・センサー
利用者の状態や離床を検知し、職員へ通知する見守り機器などが対象となる可能性があります。
単に機器を導入するだけではなく、
- 夜間巡視の回数を減らす
- 利用者の状態に応じて訪室する
- 転倒リスクを早期に把握する
- 夜勤職員の心理的・身体的負担を軽減する
といった業務改善との結び付きが重要です。
インカムやコミュニケーション機器
インカムは、令和8年度に集中的に支援される機器の一つです。
また、Q&Aでは、職員間の連絡調整の迅速化に役立つICT機器として、各種チャットツールも補助対象になり得るとされています。
例えば、
- 職員を探す時間の削減
- 内線電話の取次ぎ回数の削減
- 利用者対応中の情報共有
- 緊急時の一斉連絡
- 看護職員や相談員との迅速な連携
などの効果を具体的に示すことが重要です。
介護ソフト
介護記録、情報共有、請求、ケアプラン作成などに使用する介護ソフトも対象となります。
案内資料では、介護ソフトの基準額は原則として職員数に応じて、100万円から250万円とされています。
さらに、介護ソフトの導入に伴って一時的に使用するタブレット端末やWi-Fi環境整備等を行う場合は、15万円が加算される仕組みです。
バックオフィスソフト
直接的な介護記録だけでなく、介護事業所の間接業務を効率化するバックオフィスソフトも対象になる可能性があります。
岡山県Q&Aでは、会計システムについて、バックオフィスソフト等として補助対象になると回答されています。
ただし、一般的なソフトであれば何でも対象になるわけではありません。
事業所の業務効率化や介護サービスの質の向上にどのようにつながるのかを説明できることが必要です。
介護ソフト・バックオフィスソフトの基準額
介護ソフトやバックオフィスソフトについては、契約方式によって基準額の考え方が異なります。
職員数により契約金額が変わる場合
職員数に応じて必要なライセンス数が変動するなど、職員数によって契約金額が変わる場合は、申請時点の職員数に応じて次の基準額が適用されます。
| 申請事業所の職員数 | ソフトのみ | 介護ソフトと定着支援を併用 |
|---|---|---|
| 1人以上10人以下 | 100万円 | 115万円 |
| 11人以上20人以下 | 150万円 | 165万円 |
| 21人以上30人以下 | 200万円 | 215万円 |
| 31人以上 | 250万円 | 265万円 |
「定着支援」とは、介護ソフトの導入に伴うタブレット、Wi-Fi環境整備、ネットワーク構築、ベンダーによる導入前後のサポートなどを指します。
ただし、加算される15万円が、そのまま補助金として上乗せされるわけではありません。あくまで補助対象経費の基準額が15万円増えるという意味です。
職員数により料金が変わらない契約の場合
次のような契約方式もあります。
- 事業所単位の定額契約
- サーバー単位の契約
- 利用者数によって料金が決まる契約
- 職員数と関係なく料金が決まる契約
このように職員数によって合計金額が変動しない契約の場合は、原則として、
- ソフトのみ:一律250万円
- 介護ソフトと定着支援を併用:一律265万円
が基準額となります。
つまり、職員が3人の事業所であっても、契約方式が職員数と連動しない場合は、一律250万円の区分となる可能性があります。
ただし、実際のソフト代が80万円であれば、基準額が250万円でも、補助計算の対象となるのは原則として実際の対象経費80万円までです。
職員数は事業所単位で判断
複数事業所から応募する場合、基本的には申請する事業所ごとに職員数を算定し、基準額を判断します。
例えば、同一法人内に次の事業所があるとします。
| 事業所 | 職員数 | 職員数連動型契約の場合の基準額 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム | 50人 | 250万円 |
| 居宅介護支援事業所 | 3人 | 100万円 |
| デイサービス | 7人 | 100万円 |
介護ソフト導入に伴う定着支援も活用する場合は、それぞれ265万円、115万円、115万円となる可能性があります。
ただし、法人全体で1つのソフト契約を結び、複数事業所が共同利用する場合は注意が必要です。
- どの事業所が何ライセンス使用するのか
- 初期費用をどのように配分するのか
- 各事業所の補助対象経費をどのように区分するのか
- 同じ費用を重複して申請していないか
を明確にする必要があります。
補助金で導入した機器等は、申請事業所の職員や利用者を対象に使用することが前提であり、併設事業所であっても、申請事業所以外で使用・設置することは認められないとされています。
職員数には誰を含めるのか
介護ソフトの基準額を判断する職員数には、介護職員などの直接処遇職員だけでなく、ICTの活用が見込まれる次の職員も含みます。
- 管理者
- 生活相談員
- 介護支援専門員
- 看護職員
- そのほか介護ソフトを使用する職員
岡山県Q&Aでも、直接処遇職員だけではなく、ICTの活用が見込まれる管理者や生活相談員等を含むと説明されています。
原則として常勤換算で算定しますが、訪問介護員、居宅介護支援専門員、管理者、生活相談員など、職務の性質上、実人数で算定する職種があります。
タブレット・Wi-Fiは単独では申請できない
介護テクノロジーの導入に伴って購入するパソコン、タブレット、スマートフォン等は、補助対象となる可能性があります。
ただし、これらを単独で導入する申請は認められません。
例えば、
- 介護ソフトを導入せず、タブレットだけを購入する
- 見守り機器を導入せず、Wi-Fiだけを整備する
- 既存ソフトをそのまま使用し、パソコンだけを更新する
といった申請は対象外となる可能性があります。
岡山県Q&Aでも、PCやタブレット端末等は、介護テクノロジーの導入に伴って導入する場合に対象となり、単独での補助は認められないと説明されています。
通信費は補助対象外です。
介護ソフトのライセンス料・サブスクリプション
介護ソフトの利用契約には、次のような方式があります。
- 買い切り型
- 複数年ライセンス
- 月額サブスクリプション
- 年額利用契約
- リース契約
岡山県Q&Aでは、介護ソフトのライセンス料等について、
補助対象額は今年度の支払金額
とされています。
使用期間の長さではなく、ライセンスを購入した際に、令和8年度中に実際に支払う金額で判断します。
例えば、月額10万円のクラウド型介護ソフトを令和8年度中に6か月利用し、60万円を支払う場合は、その60万円が補助対象経費として検討されます。
一方、複数年分のライセンス料を一括で支払う契約の場合は、その支払額を基に判断することになります。
ただし、支払額がそのまま全額補助されるわけではなく、基準額や補助率の範囲内で算定されます
パッケージ型導入支援とは
パッケージ型導入支援は、複数のテクノロジーを同時に購入すれば利用できる制度ではありません。
重要なのは、複数の機器やソフトを組み合わせることで、単体で使用するよりも業務改善効果が高まることです。
実施要綱では、次のような組み合わせが例として示されています。
- 介護業務支援機器+見守り・コミュニケーション機器
- 複数の介護業務支援機器
- 介護ソフト+インカム
また、岡山県Q&Aでも、介護ソフト等と他のテクノロジーを合わせて活用することで、単体よりも効果的に活用できる場合が対象になるとされています。
パッケージ型の具体例
例えば、
見守り機器が利用者の離床を検知
↓
インカムやナースコールへ通知
↓
職員が必要に応じて訪室
↓
対応内容を介護ソフトへ記録
という一連の運用です。
この場合、
- 不要な一律巡視の削減
- 職員間の情報共有の迅速化
- 記録の効率化
- 利用者の状態に応じた対応
といった複数の改善効果を説明できます。
同じ目的で複数の機器を導入する場合
令和8年度は、同一の目的で複数機種を導入する場合の扱いが見直されています。
例えば、夜間巡視の負担軽減という一つの目的のために、
- ベッドセンサー
- 離床センサー
- 見守りカメラ
を導入する場合、同じ業務改善計画書の「導入機器等」の欄へ併記することができます。
一方、
- 見守り機器で夜間巡視を削減する
- インカムで連絡時間を削減する
- 介護ソフトで記録時間を削減する
というように、目的や解決する課題が異なる場合は、原則として業務改善計画書を分けて作成します。
大切なのは、機器の種類ではなく、
どの課題を解決するために導入するのか
という計画上の目的です。
申請時に特に注意したいポイント
交付決定前に契約・支払い・導入をしない
この補助金では、交付決定前の事前着手は認められていません。
交付決定前に、
- 契約する
- 発注する
- 代金を支払う
- 機器を導入する
などを行った場合は、補助対象外となります。
導入を急いでいる場合でも、先に契約しないよう注意が必要です。
採択は先着順ではない
応募順だけで採択が決まる制度ではありません。
県の予算額を超える申請があった場合は、
- 過去の補助実績
- 導入する機器の内容
- 見守り機器、介護記録ソフト、インカムを含むか
- 事業所の規模に対して導入台数が適切か
などを踏まえて総合的に審査されます。
そのため、単に「補助対象の機器だから購入したい」というだけでなく、導入台数の根拠や具体的な改善効果を示す必要があります。
年度内に納品・事業完了が必要
業者の都合などにより、年度内に納品や事業報告が完了しない場合は、補助金の交付を受けることができません。
導入予定の機器については、事前にベンダーへ次の点を確認しておきましょう。
- 納期
- 初期設定に必要な期間
- データ移行にかかる期間
- 職員研修の実施時期
- 年度内に支払いまで完了できるか
通信費は補助対象外
Wi-Fi環境の整備やルーター、アクセスポイント、配線工事などは、主となる介護テクノロジーと併せて導入する場合に対象となる可能性があります。
一方で、インターネット回線の月額料金、SIM通信料、携帯電話料金などの通信費は補助対象外です。
研修・相談・業務改善計画書の作成
応募方法として、次の流れが示されています。
- 研修を受講する
- 岡山県介護生産性向上総合相談センターへ相談する
- 相談内容を踏まえて業務改善計画書と事業計画書を作成する
- 添付書類を確認し、メールで提出する
業務改善計画書では、少なくとも次の内容を整理しておく必要があります。
- 現在の業務上の課題
- 課題が発生している原因
- 導入する機器やソフト
- 導入後の業務フロー
- 改善を確認するための指標
- 導入後の定着方法
- 職員への教育方法
例えば、「記録業務を効率化する」という抽象的な内容だけでなく、
介護職員1人当たり、勤務終了後に平均30分の記録時間が発生している。クラウド型介護ソフトとタブレットを導入し、居室内で記録できるようにすることで、転記作業と事務所へ戻る時間を削減する。
といった形で、現在の課題と導入後の運用を具体的に示すことが重要です。
まとめ
令和8年度の岡山県介護テクノロジー定着支援事業は、補助率が最大4分の5と高く、介護現場のICT化や業務改善を進めるうえで有効な制度です。
今年度は、1法人から複数事業所の応募が可能となり、見守り機器、介護記録ソフト、インカムについて集中的に支援することも明記されています。
一方で、補助対象となるかどうかは、単に製品名や機器の種類だけで決まるものではありません。
特に重要なのは、
- 事業所のどの課題を解決するのか
- 導入によってどの業務が変わるのか
- 導入台数に合理的な根拠があるか
- 導入後に現場へ定着させる仕組みがあるか
- 事業所ごとの費用を明確に区分できるか
という点です。
また、既存介護ソフトのクラウド化、法人共通契約、共有ファイルのクラウド化などは、公表資料だけでは補助対象かどうかを一律に判断できません。
見積書や契約内容を整理したうえで、契約や発注を行う前に岡山県介護生産性向上総合相談センターへ確認することが重要です。

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