はじめに
2027年4月から、技能実習制度に代わる新たな制度として「育成就労制度」が始まります。
介護分野でも育成就労による外国人材の受入れが予定されていますが、制度の中で特に注目されているのが、
本人意向による転籍
です。
技能実習制度では、原則として自由な転籍が難しいことが大きな課題とされてきました。
そのため、育成就労制度では、一定の要件を満たした場合に、外国人本人の希望による転籍が認められる仕組みが導入されます。
一方で、介護分野では、本人意向による転籍制限期間が2年とされています。
そして、1年を超える転籍制限期間を設定する場合には、育成就労実施者に対して待遇向上策が求められます。
この記事では、介護分野における待遇向上措置とは何か、なぜ必要なのか、実務上どのように考えるべきかを解説します。
育成就労制度における転籍とは?
育成就労制度では、外国人本人の意向による転籍が一定の要件のもとで認められます。
ただし、制度開始直後から自由に転籍できるわけではありません。
本人意向による転籍には、
- 一定期間の就労
- 技能水準
- 日本語能力水準
- 転籍先の適正性
などの要件があります。
また、転籍制限期間はすべての分野で同じではなく、分野ごとの運用方針により、1年以上2年以下の範囲で定められています。
介護分野では転籍制限期間は2年
介護分野では、本人意向による転籍制限期間は2年とされています。
これは、介護という仕事の性質を考えると理解しやすい部分です。
介護は、単に作業を覚えればよい仕事ではありません。
利用者の心身の状態を理解し、生活歴や認知症の症状、家族との関係、施設内のケア方針などを踏まえながら、継続的に関わる仕事です。
また、介護現場では、
- 日本語能力
- 介護技術
- 記録や申し送り
- チームケア
- 夜勤への対応
- 利用者との信頼関係
など、一定期間をかけて身につけるべき内容が多くあります。
そのため、介護分野では、育成に一定の時間が必要であるとして、転籍制限期間が2年とされています。
待遇向上措置とは何か?
介護分野では、1年を超える転籍制限期間を設定する育成就労実施者に対して、待遇向上策が求められています。
ここで重要なのは、
待遇向上措置=単純な昇給義務ではない
という点です。
介護分野では、介護報酬という公定価格の影響を受けるため、他分野のように「何%以上昇給」といった形だけで整理することが難しい面があります。
そのため、介護分野では、待遇向上策として主に次のような内容が示されています。
介護分野で求められる待遇向上策
① 介護職員等処遇改善加算の取得等の要件を満たすこと
介護分野では、1年を超える転籍制限期間を設定する場合、育成就労実施者は、介護職員等処遇改善加算の取得等の要件を満たすことが求められています。
処遇改善加算は、介護職員の賃金改善や職場環境改善を進めるための制度です。
つまり、介護分野では、外国人材だけを特別扱いするというよりも、事業所全体として介護職員の処遇改善に取り組んでいるかが重要になります。
② 育成就労外国人ごとの育成就労キャリア支援プランを作成すること
もう一つ重要なのが、育成就労外国人ごとに育成就労キャリア支援プランを作成することです。
これは単なる研修予定表ではありません。
外国人本人が、介護分野でどのように技能を身につけ、どのようにキャリアを形成していくのかを見える化するものです。
例えば、実務上は次のような内容が重要になると考えられます。
- 日本語能力をどのように伸ばすか
- 介護技術をどのように習得するか
- 介護育成就労評価試験に向けてどう支援するか
- 将来的に特定技能1号へ移行するために何を準備するか
- 介護福祉士取得を視野に入れる場合、どのような支援を行うか
- 夜勤や記録業務に入るまでの育成計画
- 本人の希望やキャリア目標の確認
このように、育成就労キャリア支援プランは、外国人を単なる人手不足対策として受け入れるのではなく、介護人材として育成していくための重要な資料になると考えられます。
なぜ待遇向上措置が必要なのか?
介護分野では、転籍制限期間が2年とされています。
これは施設側にとっては、一定期間人材を育成できるメリットがあります。
一方で、外国人本人から見ると、
「2年間は本人希望による転籍が制限される」
という意味でもあります。
そのため、制度としては、単に転籍を制限するだけではなく、
外国人が安心して働き続けられる職場づくり
を求めています。
つまり、待遇向上措置は、企業へのペナルティではありません。
外国人本人のキャリア形成と、施設側の人材育成のバランスを取るための仕組みです。
介護施設にとっての実務上のポイント
介護施設が育成就労外国人を受け入れる場合、単に人手不足を補うという考え方では不十分です。
今後は、
- 処遇改善加算の取得状況
- 日本語学習支援
- 介護技術の育成体制
- 育成就労キャリア支援プランの作成
- 育成就労指導員の配置
- 夜勤や緊急時対応への教育体制
- 利用者・家族への説明体制
など、受入れ前から整理しておくべき事項が増えると考えられます。
特に介護分野では、利用者の安全確保やケアの質の担保が重要です。
そのため、育成就労外国人を受け入れる施設は、単に雇用契約を結ぶだけではなく、計画的な育成体制を整える必要があります。
よくある誤解
誤解①「待遇向上措置=必ず大幅な昇給」
待遇向上措置は、単純に大幅な昇給だけを意味するものではありません。
介護分野では、処遇改善加算の取得等の要件を満たすことや、育成就労キャリア支援プランの作成が重要な要素になります。
誤解②「2年転籍できないなら、施設側は何もしなくてよい」
これは誤りです。
1年を超える転籍制限期間を設定する場合、施設側には待遇向上策が求められます。
2年間転籍を制限できるからこそ、外国人本人にとって納得感のある処遇や育成支援が必要になります。
誤解③「キャリア支援プランは形式的に作ればよい」
これも注意が必要です。
育成就労制度は、外国人を育成し、特定技能1号水準へつなげることを目的とした制度です。
そのため、キャリア支援プランも、本人の技能習得や日本語能力向上、将来のキャリアを具体的に支援する内容であることが重要です。
行政書士から見たポイント
介護分野の育成就労制度では、在留資格手続だけでなく、介護現場の実態を踏まえた支援が必要になります。
特に、
- 介護報酬制度
- 処遇改善加算
- 介護職員の育成
- 夜勤への移行
- 訪問介護等への従事要件
- 特定技能1号への移行
など、入管制度と介護制度の両方を理解しておくことが重要です。
介護施設が育成就労制度を活用する場合は、制度開始前から、
「どのように育てるのか」
「どのようなキャリアを示すのか」
「外国人が働き続けたいと思える職場にできているか」
を確認しておくことが大切です。
まとめ
介護分野の育成就労制度では、本人意向による転籍制限期間は2年とされています。
その理由は、介護が継続的な対人支援サービスであり、利用者との信頼関係、専門的な知識・技術、チームケアなどを習得するために一定の時間が必要だからです。
一方で、1年を超える転籍制限期間を設定する場合には、育成就労実施者に対して待遇向上策が求められます。
介護分野では、主に、
- 介護職員等処遇改善加算の取得等
- 育成就労外国人ごとの育成就労キャリア支援プランの作成
が重要なポイントになります。
育成就労制度は、単なる人手不足対策ではありません。
外国人を介護人材として育成し、長く活躍してもらうための制度です。
介護施設は、制度開始前から受入れ体制と育成体制を整えておくことが重要です。
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