介護施設への入所や入院をきっかけに、看護師や相談員、施設職員などから、
「成年後見制度の利用を検討してみてはどうでしょうか」
と勧められることがあります。
認知症などにより本人の判断能力が低下し、預貯金の管理や契約手続を本人だけで行うことが難しくなっている場合、成年後見制度が有効な選択肢になることはあります。
ただし、施設や支援者から制度の利用を提案されたからといって、すぐに申立てをすればよいとは限りません。
成年後見制度は、単に「施設の契約を済ませるためだけの手続」ではなく、開始後は本人の財産管理や契約手続に継続的に関わる制度です。
この記事では、施設などから成年後見制度の利用を勧められたときに、家族が確認しておきたいことを、介護現場の視点も交えて具体的に解説します。
※本記事は令和8年8月6日時点の制度を前提としています。
まず確認したいのは「なぜ成年後見が必要なのか」
成年後見制度を勧められたときは、最初に、
どの手続ができず、何に困っているのか
を具体的に確認することが大切です。
例えば、施設側が困っている事情としては、次のようなものが考えられます。
- 本人が入所契約の内容を理解できない
- 預貯金から施設利用料を支払う人がいない
- 通帳や印鑑を管理する家族がいない
- 家族間で財産管理について意見が分かれている
- 本人名義の不動産を処分する必要がある
- 遺産分割や保険金の受取りなど、法律上の手続が進まない
- 本人が不要な契約を繰り返している
- 身近な人による財産の使い込みが疑われる
成年後見制度は、判断能力が十分でない方について、財産管理、介護サービスや施設入所に関する契約、遺産分割などを法律面から支援する制度です。
一方で、単に「家族との連絡が取りにくい」「施設の緊急連絡先が必要」といった事情だけで、直ちに成年後見制度が必要になるとは限りません。
まずは、成年後見人がいなければできない法律上の手続なのか、それとも家族や支援関係者との調整で対応できる問題なのかを整理する必要があります。
成年後見人ができること
成年後見人等の主な役割は、本人の財産を管理し、本人に必要な契約や法律行為を行うことです。
具体的には、次のような対応が考えられます。
- 預貯金や年金の管理
- 施設利用料、医療費、税金などの支払い
- 介護サービス契約
- 施設入所契約
- 不動産や保険契約の管理
- 本人に不利益な契約の取消し
- 遺産分割協議などの財産上の手続
ただし、成年後見人等の権限は、本人の判断能力や家庭裁判所の審判内容によって異なります。
現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれています。
後見
判断能力が欠けているのが通常の状態にある方が対象です。
成年後見人には広い代理権と取消権が認められますが、日用品の購入など日常生活に関する行為まで自由に取り消せるわけではありません。
保佐
判断能力が著しく不十分な方が対象です。
借金、保証、不動産売買など、法律で定められた重要な行為には、原則として保佐人の同意が必要になります。
補助
判断能力が不十分な方が対象です。
本人に必要な特定の法律行為に限って、補助人へ同意権、取消権または代理権を付与します。
「成年後見人をつける」という言葉が使われることがありますが、本人の状態によっては、広い権限を持つ後見ではなく、保佐や補助が適切な場合もあります。
成年後見人にもできないことがある
成年後見人が選任されれば、本人に関することをすべて決められるわけではありません。
成年後見人の中心的な役割は、財産管理と法律行為の支援です。
そのため、一般的に次のような行為については、成年後見人だから当然に行えるとは限りません。
- 手術や治療に関する医療同意
- 本人に代わる身元保証
- 本人の結婚、離婚、養子縁組、遺言などの身分行為
- 本人を強制的に施設へ入所させること
- 本人に代わって直接介護すること
- 本人の意思を無視して生活場所を決めること
つまり、施設側が必要としているのが「医療同意をしてくれる人」や「身元保証人」である場合、成年後見制度を利用しても、その問題がすべて解決するとは限りません。
制度を勧められた際は、
成年後見人に、具体的にどの役割を期待しているのか
を施設側へ確認しておくことが重要です。
家族であっても、本人の代理を当然にできるわけではない
「家族がいるなら、家族が施設契約や預金管理をすればよいのでは」と考えることもあります。
日常的な支払いや事実上の支援について、家族が対応しているケースは少なくありません。
しかし、本人の判断能力が低下している場合、家族であるというだけで、当然に本人名義の契約や財産処分を代理できるわけではありません。
特に、次のような手続では問題になりやすくなります。
- 本人名義の定期預金の解約
- 不動産の売却
- 遺産分割協議
- 相続放棄などの法律行為
- 高額な保険金や給付金の受取り
- 本人名義の契約の解約
- 家族と本人の利益が対立する取引
本人が元気なうちに委任状を作成していた場合でも、委任された権限の範囲や、本人の現在の意思能力によって取扱いが異なります。
「家族だからできるだろう」と進めた結果、金融機関や契約相手から手続を断られることもあるため、事前の確認が必要です。
申立ての目的が終わっても、成年後見は自動的に終わらない
成年後見制度を利用する前に、特に知っておきたい点です。
法定後見が開始されると、申立てのきっかけとなった手続が終わった後も、制度は原則として継続します。
例えば、
- 施設入所契約が終わった
- 定期預金を解約できた
- 遺産分割協議が成立した
- 不動産を売却できた
- 保険金を受け取った
という場合でも、それだけを理由に成年後見が終了するわけではありません。
裁判所は、本人が判断能力を回復するか、本人が亡くなるまで手続が続き、本人や家族の希望だけで自由にやめることはできないと案内しています。
そのため、
今回の施設契約だけ終わればよい
という事情で申立てを検討している場合は、その後の財産管理や裁判所への報告も含めて考える必要があります。
申立てをすれば、希望する家族が後見人になれるとは限らない
家族が申立てを行い、申立書に後見人候補者を記載しても、その人が必ず選任されるわけではありません。
成年後見人等は、本人の財産状況、家族関係、必要となる事務の内容などを踏まえて、家庭裁判所が選任します。
事案によっては、
- 弁護士
- 司法書士
- 社会福祉士
- その他の専門職
- 法人
などが選任される可能性があります。
また、親族間に対立がある場合、財産額が大きい場合、不動産処分や遺産分割など複雑な法律問題がある場合には、専門職が選任されることも考えられます。
「家族が後見人になるつもりだったのに、別の専門職が選任された」ということもあり得るため、申立て前に理解しておく必要があります。
成年後見人には継続的な財産管理と報告が求められる
親族が成年後見人等に選任された場合でも、本人の通帳を預かって自由に支出できるわけではありません。
本人の財産と後見人自身の財産を分け、収入や支出を記録し、家庭裁判所の監督を受けながら管理する必要があります。
具体的には、次のような対応が求められます。
- 本人の財産や収支の把握
- 預貯金、現金、不動産などの管理
- 領収書や支払記録の保管
- 本人のために必要な契約や支払い
- 家庭裁判所への定期的な報告
- 高額な支出や不動産処分に関する事前相談
後見人等が本人の権利や利益を害する不適切な財産管理を行った場合、解任、損害賠償、刑事責任につながる可能性もあります。
「親のお金だから家族で使ってもよい」「将来自分が相続する予定だから問題ない」という考え方は認められません。
成年後見人等は、相続人の利益ではなく、現在生活している本人の利益を優先して行動する立場です。
成年後見制度以外の方法で対応できることもある
本人の判断能力や困っている手続の内容によっては、成年後見制度以外の方法を検討できる場合があります。
本人に判断能力が残っている場合
本人が契約内容を理解し、自分の意思を示すことができる場合は、本人による契約や委任契約で対応できる可能性があります。
例えば、将来の財産管理に備える方法として、
- 財産管理等委任契約
- 見守り契約
- 任意後見契約
- 死後事務委任契約
- 遺言
などが考えられます。
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来任意後見人となる人や委任する事務の内容を公正証書で定めておく制度です。本人の判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。
日常的な金銭管理が中心の場合
必要な支援が、日常的な支払い、福祉サービスの利用手続、通帳管理などに限られる場合は、地域の社会福祉協議会などが行う支援制度を検討できることもあります。
ただし、不動産売却や遺産分割など、本人に代わる法律行為が必要な場合には対応できないことがあります。
すでに判断能力が大きく低下している場合
本人が契約内容を理解することが難しい状態では、新たに委任契約や任意後見契約を結ぶことができない可能性があります。
その場合は、法定後見制度の利用を検討することになります。
重要なのは、「成年後見を利用するか、利用しないか」だけで考えず、本人の判断能力と必要な支援内容を照らし合わせることです。
申立て前に整理しておきたい項目
成年後見制度の利用を検討するときは、次の内容を整理しておくと、必要性を判断しやすくなります。
本人の状態
- 認知症などの診断はあるか
- どの程度会話や意思表示ができるか
- 契約内容を理解できるか
- 金銭管理を自分で行えるか
- 本人は制度利用についてどう考えているか
困っている手続
- 施設入所契約
- 介護サービス契約
- 預金の払戻し
- 施設利用料などの支払い
- 不動産売却
- 遺産分割
- 不要な契約の取消し
- 財産の使い込みへの対応
家族や支援者の状況
- 本人を支援できる家族はいるか
- 家族間で意見の対立はないか
- 通帳や印鑑を誰が管理しているか
- 施設、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどと連携できているか
本人の財産状況
- 預貯金
- 年金やその他の収入
- 不動産
- 保険
- 借金や未払金
- 毎月の生活費・施設費
こうした情報を整理したうえで、成年後見制度が必要なのか、どの制度が合っているのかを検討します。
法定後見の申立ては家庭裁判所で行う
法定後見制度を利用する場合は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、後見・保佐・補助開始の審判を申し立てます。
申立てができる人には、本人、配偶者、四親等内の親族、市町村長などが含まれます。
申立てでは、一般的に次のような資料を準備します。
- 申立書
- 本人情報シート
- 医師の診断書
- 本人と申立人の戸籍・住民票関係書類
- 財産目録
- 収支予定表
- 預貯金や不動産などの資料
- 親族関係を確認する資料
- 後見人候補者に関する資料
本人の状況によっては、医師による鑑定が行われる場合もあります。
申立手数料や登記手数料のほか、郵便切手代、必要に応じて鑑定費用がかかります。法務省の案内では、後見・保佐・補助開始の申立手数料は各800円、登記手数料は2,600円とされていますが、付随する申立てや裁判所ごとの郵便切手、鑑定の有無によって総額は異なります。
伊達行政書士事務所が大切にしていること
成年後見制度について相談する際、制度の説明だけでなく、
- 本人が現在どのような生活をしているか
- 施設や家族が何に困っているのか
- 本人の意思をどこまで確認できるか
- 今後どのような介護や生活が見込まれるか
- 財産管理を誰がどのように担うのか
まで整理することが大切です。
伊達行政書士事務所では、行政書士としての法務面に加え、介護施設の現場経験と社会福祉士・介護支援専門員としての知識を生かし、制度だけでなく、本人や家族の生活全体を踏まえてお話を伺います。
成年後見制度を勧められた場合でも、最初から申立てを前提にするのではなく、
なぜ制度が必要と言われたのか
成年後見人に何をしてもらう必要があるのか
他の方法では対応できないのか
を一緒に整理することを大切にしています。
法定後見の申立書類の作成や裁判手続について、司法書士や弁護士による対応が必要な場合には、適切な専門家との連携も含めてご案内します。
また、本人に判断能力がある段階であれば、任意後見契約、財産管理等委任契約、見守り契約、遺言など、将来に備えるための方法を検討できます。
「まだ成年後見が必要か分からない」という段階でも、状況を整理することには意味があります。
まとめ
施設や支援者から成年後見制度の利用を勧められたときは、すぐに申立てを進めるのではなく、まず次の点を確認しましょう。
- どの手続ができずに困っているのか
- 成年後見人でなければ対応できないのか
- 本人の判断能力はどの程度か
- 後見・保佐・補助のどれが適切か
- 成年後見人に期待している役割は何か
- 制度開始後の財産管理や報告を誰が担うのか
- 他の支援制度や契約で対応できないか
成年後見制度は、本人の財産や権利を守るための重要な制度です。
一方で、申立てのきっかけとなった手続が終わっても、家族の希望だけで自由に終了できる制度ではありません。
だからこそ、
とりあえず後見人をつける
のではなく、本人の状態、家族関係、財産、今後の生活を整理したうえで、本当に必要な支援を選ぶことが大切です。
成年後見に関するご相談
施設から成年後見制度の利用を勧められたものの、
- 本当に申立てが必要なのか分からない
- 家族で対応できる範囲を知りたい
- 後見・保佐・補助の違いが分からない
- 任意後見との違いを知りたい
- 親の財産管理を今後どうすればよいか不安
- 介護施設との契約や支払いに困っている
という方は、伊達行政書士事務所へご相談ください。
介護現場と福祉制度の両方を踏まえ、本人とご家族の状況を丁寧に整理し、必要な手続や相談先をご案内します。
注意書き
※本記事は令和8年8月6日時点の制度を基に作成しています。令和8年6月には、現在の後見・保佐制度を廃止して補助制度へ一元化することなどを内容とする成年後見制度の改正法が成立・公布されています。施行時期や経過措置によって取扱いが変わるため、実際に制度を利用する際は最新の法令・裁判所の案内をご確認ください。

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